いきなり「クズ投信を選んでください」なんて言われても、
そもそも「そんなものあるの?」なんてところから、疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。

ですが、実のところ、投信を作っている運用会社自身が「クズ投信」の存在を公式に認めています
 ☞ 販売会社に作らされる「クズファンド」には、NOを! 今こそ、ガバナンスの強化を!

そして、目をつむって選んでも、ほぼ「クズ投信」が選ばれる、と言えるほどの状況にはありますが、
ただ、「平成史に残る」とまでになると、やはり数は絞られてきます。


そんな中、私が、自信をもって選出する「平成史に残るクズ投信」とは、、(ジャカ・ジャカ・ジャン)
AI日本株式オープン(絶対収益追求型)(愛称:日本AI(あい))
です。「AI」とは「人工知能:Artificial Intelligence」のことです。
AI日本株式オープン_ファンドの特色

ちなみに、運用会社ではこれを「次世代の資産運用」と称して大々的に販売していました。
 ビッグデータとAI技術を組み合わせた「次世代の資産運用」

ですが、こんなものは『平成の時代の遺物』で終わって欲しい、そんな願いもあって選んでみたのですが、
以下では、その理由について詳しく書いてみたいと思います。


選考理由①:ファンドのパフォーマンスが「クズ」

AI日本株式オープン(絶対収益追求型)は、ファンドの「最大の売り」として、
  日本株への投資を通じて、リスクを抑えながら安定的にリターンを獲得していく運用を目指す
という点が強調されていました:

「市場全体が右肩上がりに成長している状況だと、AIファンドのリターンは物足りなく思われるかもしれません。しかしこの商品は、リーマンショックのようなマイナス局面でも収益を確保できる可能性があるのです。
特に注目していただきたいのが、収益のばらつきを示す標準偏差です。TOPIXはだいたいプラスマイナス20%のぶれがあるといわれていますが、AIファンドでは4%です。つまり、投資リスクが5分の1程度に収まっているということです。これがAIファンドの最大の売りです
(三菱UFJ信託銀行 国内株式クオンツ運用課 岡本訓幸氏)
 - マイナス金利時代にAIがもたらす価値~三菱UFJ信託銀行の挑戦[前編]
AI日本株式オープン_シミュレーション(年度別)_2008年含む AI日本株式オープン_シミュレーション(サマリー)_2008年含む


また、シミュレーションでは全ての年度でプラスのリターンを獲得している点が強調され、パフォーマンスが安定的であることが売り文句になっていました。
「AI日本株式オープン(絶対収益追求型)」は、AIを活用し、複数の戦略を組み合わせた絶対収益追求型運用により安定的な収益の獲得を目指すファンドです。図2をみると、過去のシミュレーションにおける年間騰落率は、2009年度以降すべてプラスで、市場(国内株式)対比で安定したパフォーマンスが見込めるでしょう。
 - AIが運用する次世代ファンドならコレ!「AI日本株式オープン(絶対収益追求型)」
AI日本株式オープン_シミュレーション(年度別)_2008年含まず



しかしながら、その結果は惨憺たるものです。設定来のパフォーマンスは現時点で▲8.36%となっています。
MUTB-日本AI vs TOPIX+キャッシュ 20190426
データの出所:三菱UFJ国際投信「AI日本株式オープン(絶対収益追求型)」|「MAXIS トピックス上場投信


シミュレーションでは全ての年度でプラスのリターンを獲得しており、安定した運用が可能であったと言われていましたが、
運用開始から2年が過ぎた現在、パフォーマンスはマイナス圏に沈み、早くも期待を裏切る結果となっています。
その上、TOPIXがプラス圏にある中で、AIファンドのシャープレシオは優に▲1.0を下回っており、シミュレーション結果とは真逆の悲惨な状況です。
低リスクであることを信じて、まとまった資金を投資された方にとっては、想定を大きく超える損失額を抱えることになったのです。

結局、TOPIXのボラの5分の1程度にリスクが抑えられる点を「最大の売り」としていましたが、
現状では、資金の5分の1(=全体の20%)をTOPIXに投資し、残りは現金のまま保有していた方が、はるかにパフォーマンスが良かったと言えます。


そして、このようなAIファンドの苦戦は、日経新聞にも取り上げられました:
「AI日本株式オープン」は、三菱UFJ信託銀行と同行傘下の三菱UFJトラスト投資工学研究所(MTEC)が投資助言するAIファンドだ。
設定来の運用成績はマイナス3%だ。
MTECは「日本一優秀なクオンツ部隊」(関係者)と呼ばれる。そんな精鋭たちが開発したAIでさえ、このマーケットでは苦労しているというわけだ。
 - 日経新聞(2018.8.30)『AIも手を焼く日本株 経験則通じず成績低迷


選考理由②:クオンツの開発・商品化能力が「クズ」

では、なぜ、シミュレーションでは全ての年度でプラスのリターンを獲得するような安定的な運用が可能であったのに、
実運用のフェーズになった途端、シミュレーションとは真逆の結果になってしまったのでしょうか?


私は、彼らが提示したシミュレーション結果に、その原因のヒントが隠されていると思います。
当初、三菱UFJ信託銀行が提示したシミュレーション結果には、リーマンショックが起きた2008年度が含まれていました。
資産運用といえばもちろん運用成績が大きな焦点の一つになるが、シミュレーションの結果では、トータルではTOPIXの値動きを大きく上回る結果となった。
三菱UFJ信託銀行とMTECが2008年4月から2016年3月を想定して行ったシミュレーションでは、年平均7.4%の運用成績を叩き出したという。
年度別でTOPIXの動きと比較すると、TOPIXが2008年にリーマンショックの影響で30%以上落ち込み、2010年、2015年にも約10%程度のマイナスを記録した一方で、シミュレーションではすべての年度でプラスを記録
TOPIXの上昇局面ではTOPIXを下回る試算となったものの、トータルでは年平均3.4%であったTOPIXの値動きを大きく上回った。
AIは人間よりもデータ処理能力に優れており、その能力の一端を示したと言えそうだ。
 - MUFG:三菱UFJ信託銀行が運用する、人工知能を活用した投資信託とは

しかしながら、販売段階で作られた資料に掲載されたシミュレーション結果は、2008年度を含まないものに変わっています。
2009年度以降では、バックテストのパフォーマンスは月次でマイナスとなる月があったものの、年次ではすべてプラスを維持しました。
一方で、国内株式相場が上昇した年度ではバックテストの上昇率は国内株式よりも小さくなる年度が多くなっています。
 - 三菱UFJ銀行:<販売用資料>AI日本株式オープン(絶対収益追求型)[pdf
mufg_バックテスト

「リーマンショックの年ですらプラスであった」という点を強調していたにも関わらず、です。
三菱UFJ信託銀行は人工知能(AI)が自動で運用するファンドを、このほど国内で初めて組成した。
今年度内には個人投資家向けの投資信託として商品化することを検討する。
このAIを使ったシミュレーションでは2008~15年度のすべての年で利益を確保できた。年率平均リターンは9%だった。
三菱UFJ信託銀によると国内で米金融危機の08年度にプラスの運用成績を上げたファンドはない


三菱UFJ信託銀行では、この分析をもって、
 「シミュレーションを行った全ての年度でプラスのリターンを獲得しており、安定的な運用が可能であった」
と主張していますが、
しかし、シミュレーション期間を恣意的に変更しており「提示された結果には頑健性が認められない」と言えます。
彼らのモデルの現実の姿は、
 「『全ての年度でプラスのリターンを獲得できた期間』を恣意的に選んで、この期間内だけでシミュレーションを行った」
というものに過ぎなかった可能性が非常に高いのです。
そして、この程度のモデルなら、実運用でどのような結果になったとしても、何ら不思議はありません。



では、なぜ「頑健性のないモデル」が出来てしまっていたのでしょうか?
この点については、彼らが同運用システムを特許申請した際に提示した資料が参考になります:
 ☞ 特許情報プラットフォーム※「人工知能を用いたファンド運用システム」で検索すると出てきます。

「審査書類情報照会」の「添付書類」に記載されている『モデルの寄与度分解の図』を見ると、
実は、2008年度にプラスのリターンを獲得できたのは「現物戦略」のおかげであり、「先物戦略:AIモデル」はマイナスに寄与していたことが分かります。
ですが、ファンド全体で見ると「綺麗」な程に全ての年度でプラスとなるよう、バランスよく各モデルの寄与度が決定されていたことが分かります。
2008年度がプラスとなったのは、AIモデルとは無関係 特許申請時資料の見方
※ 特許申請時の添付資料[pdf](図の赤字は、引用者が記載したもの)



このAI運用システムは、特許申請理由にもある通り、複数のモデルを組み合わせることで初めて“実用化”できた、
言い換えれば、「モデルの組み合わせによって、はじめて、全ての年度でプラスとなる安定的なパフォーマンスが実現した」と言えるのです。
AI日本株式オープン_公開特許公報_本発明が解決しようとする課題
図の出所:特開2018-025851(pdf)[4項目]



しかし、その彼らが主張する「安定的な運用」の肝とも言える『モデルの組み合わせ方』は、
固定的でありながら、事前にモデルの有効性やブレ幅を把握していたのではないかと思えるほどにバランスが良いもの
でした。
どう考えても、その決定方法は非常に恣意的である(バックテスト結果を見ながら事後的に調整して決めたのではないか)と言えます。
AI
図の出所:特開2018-025851[12項目] ※ 図中の青字・赤字の書き込みは引用者によるもの

上図によれば、AIが「上昇する」と判断しても、非AIモデルが「上昇しない」と判断すれば、市場連動性は小程度にしか引き上げられません。
逆にAIが「上昇しない」と判断していても、非AIモデルが「上昇する」と判断すれば、それだけで市場連動性は中程度にまで引き上げられます。
「非AIモデル」はAIの判断を補助するというよりも、独立に存在し、かつ、ポートフォリオへの影響度はAIよりも大きく設定されているのです。
AI運用システムと称しながら、そもそも、AIを組込むことに積極的な意義があったのか疑問に思えてくる組み合わせ方法と言えます。
さらに言えば、非AIモデルが時系列データから抽出する情報は、AIモデルのインプットデータに使われているテクニカル指標と同種のものです。
それをあえてインプットデータとしてではなく独立させて合成している点にも恣意性を感じます。


結局、このAIモデルがシミュレーション同様にパフォーマンスが安定するには、以下の前提がすべて成り立つことを暗に仮定する必要があります:
  1. 現物戦略は、株式相場が上昇局面では指数(β)に比べると見劣りし得るが、非上昇局面(下落局面など)ではプラスに寄与できる。
  2. 非AIモデルは、株式市場の上昇局面、非上昇局面を判別できる。
  3. 非AIモデルが上昇局面と判断する状況下では、現物戦略は十分には機能しなくとも、先物戦略がそれを補完する。
    一方、上昇局面ではない(下落局面など)と判断する状況下では、現物戦略が機能するので、基本的に先物戦略は何も行わないで良い。
  4. AIモデルは下落局面を回避する能力が高いわけではないので、寄与度を高めすぎない方が良い。
  5. 各モデルの寄与度は、バックテスト時と大きく変わらない(=同程度の合成比率を採用していれば、綺麗に補完しあえる)。
そして、このような薄氷の関係(オーバーフィッティング)から少しでも外れた瞬間、モデルの安定性は失われることになります。



下図は、月次レポートで報告されている、実際の運用結果の要因分解(モデル別)に注目し、その寄与額の累和の推移を見たものです:
AI日本株式オープン_モデル寄与度_201903
※ 運用スタート時には、当初の検証時からさらにモデルが加えられるとともに、モデルの名称も若干変わっています。上図は、当初の検証時の枠組みにならってモデル結果を分類しました。
分類せずに、各モデルの結果を直接みたのが下図です:
AI日本株式オープン_各モデル寄与度_201903


先物戦略[非AIモデル]が上昇局面ではないと判断している状況下では、現物戦略が機能するはずでしたが、マイナスに寄与しています。
このような事態は、運用システムの設計上、完全に想定外であったため、モデルでは何らの対応策も組み込まれてはいません。

「複数のモデルを合成することで安定的な運用が可能なシステムを構築した」などと主張していますが、
実用上は、そのような運用システムとは程遠いものです(「設計ミス」と言ってもいいと思います)。
なぜなら、検証に使用した机上のサンプルデータとは異なる、しかしながら、現実(完全なアウトオブサンプル期間)では十分に起こり得る(実務家なら当然に想定すべき)事態への『発想・思慮』が完全に欠如していたのです。


さらに言えば、彼らが現物戦略(安定高配当、ニュースピック)を構築する際に使用したデータ期間とバックテスト期間は重複しています。
高配当戦略について ニュースピック_テキスト効果
[左図]特許申請時の添付資料より  [右図]三菱UFJ信託資産運用情報 2016年6月号 『新潮流で広がるクオンツ運用のフロンティア』(pdf

ある意味で未来のデータを「カンニング」しながらモデル(=バックテストに使う入力データ)を作っていますので、
バックテスト結果に「アウトオブサンプル期間」はありません。
現物戦略が大きく足を引っ張っていますが、これは、モデルの有効性が十分にテストされたとは言えない(オーバーフィッティングになっていた可能性が非常に高い)状態のまま実用化したことが原因であると思われます。
事前のチェックさえしっかりしていれば(商品化見送りという選択肢も含め)実運用での大失敗は回避できた可能性が非常に高いと言えます。

このように、ファンド設計は稚拙であり、また事前の有効性検証もろくになされないまま実用化されています。
こんな状態では、実運用で失敗するのは当然であり、戦略の有効性云々以前の問題、まさに「人災:モデル化の失敗・瑕疵」だと言えます。


なお、先物戦略[AIモデル]のウェイトへの反映度は、アベノミクス相場の強烈な上昇相場をもとに決定していると考えられ、
パフォーマンスへの寄与度も、運用開始後の相場環境では非常に小さなものとなっています。
※ 先物戦略では、モデルが上昇局面と判断した場合だけポジション(ロング)を取るため、TOPIX自体が上昇している場合、コイン投げモデルを使ってもプラスのリターンを獲得することは可能です。プラスのリターンを獲得したというだけで予測精度が高いとは評価出来ない点は注意が必要です。



そして、この図は、本運用システムの別の問題点の存在も示唆しています。モデルの寄与度に対して、モデル以外要因の影響度が大きすぎるのです。
実際の運用結果を見る限り、シミュレーション上では機能しても、そもそも実用性のあるモデルにはなっていなかった:
  1. 低リスクにこだわるあまり、実運用上(=コスト控除後の評価で)、必要なリスク量すら取っていなかった。
  2. 投資タイミングのズレ(モデルは引け値ベースで評価するが、これは現実の執行価格とは異なる)等の影響をシミュレーションでは十分に考慮出来ず、さらにはテスト運用時の評価がザルだったため、実用性の低いモデルを採用してしまった。
    ※ βの推定は問題なく出来ているのかという点も気になるポイントではあります。
という可能性が非常に高いと言えます。
つまり、シミュレーション結果が、実用に耐え得るものか判断するという、クオンツなら出来て当然の分析に失敗していたのです。

喩えるなら、「工学博士」を用意すれば、それで「レーシングカー」が出来るわけではないのです。



選考理由③:職業倫理の欠如(品質・性能偽装)

近年、日本を代表するような大手自動車メーカーや素材メーカー等で、性能・品質偽装の発覚が話題となりましたが、
先程のバックテスト期間の恣意的な選択も同じ次元のものです。
そして、「ゴキブリ理論」が示唆するように、このような悪質な行為が1つ見つかると、往々にして、他でも連鎖的に見つかるものです。

その事例を紹介してみたいと思います。
「ディープラーニング」を活用したAIモデルである「日次予測モデル」について、三菱UFJ信託銀行では、予測力の高いモデルを構築できたと主張しています:
同社(三菱UFJ信託銀行)の検証によると、深層学習を導入したことで、大きく二つの効果を確認できたという。「多層化効果」と「学習効果」だ。
2009年12月から2015年9月までの入力データを基にシミュレーションしたところ、多層モデルは3層モデルに比べて、年率で約10%利回りが高くなる結果が得られた。学習効果は、「毎日蓄積されるデータで学習させると、予測モデルの精度が向上する」(岡本チーフファンドマネージャー)というもの。日々学習させた場合の予測モデルは、学習させない予測モデルに比べて年率で約10%利回りが高くなったという。
 - 日経コンピュータ『ディープラーニングで資産運用、三菱UFJ信託が新たな金融商品
日経コンピュータに掲載された学習効果を示した図

この彼らが一般メディア向けに公開した図をみると、描画期間が2012年3月29日から(検証期間が3年程度)になっています。
ですが、AIを用いたファンド運用システムの特許申請時の資料には、それ以前の期間(2009年12月)から検証を行った図が掲載されています。
特許資料に掲載された学習効果を示した図
図の出所:特開2018-025851(人工知能を用いたファンド運用システム)[11項目] 特許情報プラットフォーム


三菱UFJ信託銀行が一般メディア向けに公開した図では、AIの効果が上手く出ていない見栄えの悪い時期が意図的に削除されていたのです。
投信購入者にとっては、AIが機能しない時期などないと意図的に錯覚させるような(実態以上に製品の性能を高く見せかける)詐欺的な行為が行われたのです。

さらに言えば、この図の検証期間は2009年12月末からとなっており、彼らが同時に行っていたバックテスト期間(2008年度~)とは異なっています。
恥ずべきことに、三菱UFJ信託銀行は予測精度が高いと見せかけやすい検証期間を意図的に選択して検証(品質・性能偽装)を行っていたです。
 ☞ 詳しくは、別ブログ:投信メモ『予測精度評価の不誠実さ:AI日本株式オープン(絶対収益追求型)』を参照下さい。
 AI日本株式_AIモデルの有効性検証_恣意的な期間設定 AI日本株式オープン_特許資料p5
  ※ 特許申請時の添付資料(図の赤字は、引用者が記載したもの)



ちなみに、AI日本株式オープンが登場したとき、各メディアでは同モデルの学習効果の高さについて、こんな風に伝えていました:
三菱UFJ信託銀行は今日からAIが資金を運用する投資信託の販売を始めました。
試験運用では去年6月のイギリスのEU離脱決定の直後には損失を出したものの、11月のアメリカ大統領選挙でトランプ氏が優勢となり、株価が急落した局面では損失を回避するなど、自ら学習するのも大きな特徴です。
三菱UFJ信託銀行では、AIは人間に比べてリスクを回避する能力が高く、長い目で見ると安定した収益を生み出せるとしています。
 - WBS(テレビ東京)『個人向け販売開始 AIが運用する投資信託
AI日本株式オープン_トランプショック2
あるいは、もっと具体的に、以下のように説明しています:
AIは、人間では気づかないささいな変化を捉えることも得意です。
一例を挙げると、ブレグジット(英国のEU離脱)の際、AIの運用はあまりうまくいきませんでした。ただ、その経験を踏まえて、米国大統領選でトランプ大統領が勝った当日、日本の市場は下落しましたが、AIは前日に『すべてヘッジせよ』というシグナルを出していました。
おそらく、市場心理のデータのなかにフルヘッジすべき要因が潜んでいたのでしょう。人間だとなかなか見つけられない、ちょっとした変化をAIは読み取れていたのだと思います。(三菱UFJ信託銀行株式会社 資産運用部 国内株式クオンツ運用課 チーフファンドマネージャー岡本訓幸氏)

ですが、この点については、ロイターの記者の方が書いていたように「トランプショック」を予測してリスク回避をしていたわけではありません。
今回の米大統領選に向けては、AIモデルが前日にフルヘッジのシグナルを出し、「米大統領選当日の日本株の急落による損失は回避できた」と岡本訓幸チーフファンドマネージャーはいう。
もっとも同ファンドでは月の約半分でフルヘッジしているといい、米大統領選でのトランプ氏勝利を予見してヘッジ比率を高めたわけではない
 - ロイター『焦点:広がるAIファンド、「トランプ相場」では悲喜こもごも

AI日本株式オープンは、上昇局面ではない(下落・ヨコヨコ・分からない)と判断している時は常にフルヘッジにする仕組みです。
危機察知・回避能力が高いわけではなく、単に多くの局面でリスクを取らないようにしているだけに過ぎません。

そして、この判断の多くはAIモデルではなく、転換点予測モデル(非AIモデル)が担っています。
三菱UFJ信託銀行側の一般メディア向けの説明とは異なり、AI単独の判断では「フルヘッジせよ」という制御は、システム上、不可能なのです。
AI

また、米大統領選と英国民投票というイベントを意図的に結び付けて、強引に解釈をしていますが、実態は、学習効果などではありません。
単に米大統領選直前は軟調な相場展開であったことから「上昇局面ではない」と判断していたが、
開票が進んだ東京時間でさらに大きく下落したため、テクニカル指標の逆張り判断からヘッジを外したというだけのことだと思います。
AI日本株式オープン_トランプショック1jpg

例えば、実運用時にも下落時に同様の判断をしているケースがあります:
AI日本株式オープン_月報_201712



このように、商品についての品質・性能に関する説明が、明らかに優良誤認をもたらすようなものにも関わらず、
それらが平然と行われ、許されている状況にあります。
こんな状況では、職業倫理が崩壊し、低レベルな商品開発が罷り通ってしまうのは、嘆かわしくもありますが、ごく自然のことと言えます。



選考理由④:蔑ろにされた「顧客本位」

では、なぜ、このような「欠陥品」が堂々と売られてしまったのでしょうか?

AI日本株式オープン(愛称:日本AI(あい))は、三菱UFJ信託銀行が開発し、子会社である三菱UFJ国際投信を通じて個人向けに商品化されました。
そして、「国内初のAI(人工知能)が投資判断を行う“次世代の資産運用”」と大々的に宣伝し販売されています。


実は、三菱UFJ信託銀行では、この事例を自社アピールのために使っています。
例えば、以下のように、若手リクルートのための宣伝に利用しています:
三菱UFJ信託銀行:「FinTech」は信託銀行にこそ必要な手段 信託銀行だから生み出せる価値がある
三菱UFJ信託銀行がFinTechの一つであるAI技術の積極的導入を進めたのは2016年の春頃であり、翌年2017年2月にはビッグデータとAI技術を組み合わせた投資信託「日本AI(あい)」の運用を開始しました。
こうした挑戦を実行するために必要な「プロフェッショナルな仲間」と「風土」が当社にはそろっています。
 - Fintech Data Championship
「FinTech」は信託銀行にこそ必要な手段
※ 現在は削除されていますが、2019年の三菱UFJ信託銀行の採用サイトでもこの事例が取り上げられていました。
ビッグデータとAI技術を組み合わせた「次世代の資産運用」_2

そして、今後も以下のような感じで利用されることでしょう。
「次世代の技術である人工知能を活用した資産運用についても他社に先駆けて研究を行い、かつ、いち早く商品化するなどの優れた実績を残してきている」と。


そのため、AI日本株式オープンについて、三菱UFJ信託銀行が行う説明では、AI(人工知能)を活用している部分が殊更に強調されます:
「朝、出社してくると、今日売買すべき銘柄と株数がパソコンに表示されている。いま『日本AI』の運用担当者の仕事はAIが出してきた売買の指示を確認し実行すること。AIの判断に基づくAIが主役の運用です
三菱UFJ信託銀行資産運用部の岡本訓幸チーフファンドマネージャーはそう笑う。

岡本氏によれば、AIが出した判断に人間の判断を加えないことが、AI運用で成果を出すためのポイントだという。
人間では目を通しきれない膨大な量のデータから導き出した結果なので、仮に人間が見て首をかしげるような内容だったとしても、信じるべきというわけだ。そもそも、人間とは異なる運用判断ができるからこそ、ファンドとしての存在意義があるし、人間が運用するファンドに対するリスクヘッジにもなる。
 - 資産運用はAIと人間の共存が不可欠~三菱UFJ信託銀行の挑戦[後編]


しかしながら、親会社である三菱UFJ信託銀行が開発した商品を「卸す」立場にある三菱UFJ国際投信では、以下のように説明しています:
三菱UFJ国際投信はAIの判断を仰ぐ投資信託「AI日本株式オープン」を運用している。
国際投信に対し、売買する銘柄やタイミングを助言しているのは三菱UFJ信託銀行だ。運用20年を超すベテラン、岡本訓幸チーフファンドマネージャーがAIと二人三脚でアドバイスする。
ただ、重要なことは、AIがすべて決めているわけではない点だ。代田氏は「相場の大きな変わり目をみるのは人間の役割」と強調している
岡本氏は2008年の米金融危機に代表されるような大きな変化が起きないかをみている。
(※ 三菱UFJ国際投信 代田秀雄取締役)
 - 日経新聞『AI開発にも倫理を、実現するか「人道知能」
転換点予測モデルは人間?

人工知能が運用すると言っても、まだまだ実績はなく、個人投資家にとってはやはり不安も多いことでしょう。
そこで、販売会社が売りやすいように、三菱UFJ国際投信では人間の判断も重要な役割を果たしていることを殊更に強調しています。
(※ シミュレーションでは、リーマンショックをはじめすべての下落局面を年次評価では回避しており、この結果を「AIは人間よりもデータ処理能力に優れており、その能力の一端を示した」などと喧伝していたのに、FMが何を見るんだろうと思われた方もいらしたと思います)

※ なお、三菱UFJ国際投信が作成した「販売用資料」では、上図の『⑤人間が転換点を判断』部分が『転換点予測モデル』という表現になっています。
AI日本株式_活用する5つのモデル
図の出所:三菱UFJ信託銀行「<販売用資料>AI日本株式オープン(絶対収益追求型)」(pdf


このように、AIファンドの開発元(親会社)と卸し(MUKAM)では、同一のファンドにもかかわらず、まるで異なるファンドであるかのような、
二枚舌を使った説明がなされています(それどころか、実態とはかけ離れた好き勝手な説明が堂々となされています)。
これは、ひとえに、AI日本株式オープンの商品化理由が「顧客本位」とは全く違った点(親会社の利益)にあったから生じたものと言えます。

 ※ 親会社(三菱UFJ信託銀行:MUTB)の利益
   ☞ 運用会社としての“実績”づくり(自社のイメージ戦略の一環


大変残念なことに、
販売実績が欲しい親会社の意向に従って『欠陥品』と言えるファンドにもかかわらず、誇大な宣伝文句とともに個人投資家に販売されてしまったのです。


さいごに

AI日本株式オープン(絶対収益追求型)は、現在の投信ビジネスが抱える数多くの闇を余すところなく抱えた「業界の縮図」と言えます。
まさに、「平成史に残るクズ投信」と呼ぶに相応しい、突出したファンドの1つです。
AI日本株式オープン